報道大手が17日までに伝えた北海道新聞記者の書類送検に関する報道で、渦中の北海道新聞が自社の記事に事実誤認を指摘されつつ訂正要望に応じなかったことがわかった。送検された記者は昨年6月、取材先の大学敷地内に「侵入」したとして大学職員に「常人逮捕」されているが、送検を伝える17日付の記事で道新はこれを「警察官による逮捕」と誤って報道していた。
◇ ◇ ◇
道新関係者によれば、記事は札幌本社の編集局報道センターが出稿したもので、逮捕・送検の現場である旭川支社報道部には内容がほとんど知らされていなかった。送検された記者2人への「取材」もなく、報道センターが現場を顧みずに独自の判断で記事を発信したことになる。その中に、次のような記述があった。
《記者は、学長解任の適否を審査する学長選考会議が開かれていた看護学科棟4階の廊下にいたところ、職員に取り押さえられ、駆けつけた警察官に現行犯逮捕された》
すでに述べたように、末尾の「警察官に現行犯逮捕」とあるのは、事実と異なる。ほかならぬ道新自身、これまで何度となく「常人逮捕」の経緯を伝えてきたはずだ。逮捕から9カ月を経て突然こうした事実誤認が発信されたことで、北海道警察は道新に記事の訂正を求めたという。ところが――「センター長の判断で、訂正記事は出さないことになりました。これについては旭川支社からも『警察の現行犯逮捕と常人逮捕では受ける印象が違う』と申し入れがあったようですが、センター長の判断は変わらなかった。『常人逮捕では私人と警察官が連名で手続き書をつくるから』とか言い訳を述べていたらしいですが、そもそも送検された本人に確認もせずに記事を出すのがおかしい話で、事情がわかっている旭川報道部が書けばこんな間違いは起きなかったはずです」(編集局関係者)
旭川報道部に先んじて札幌の報道センターが記事を仕立てた背景には、現場への「取材禁止」通達があった。旭川の記者らは当初から「夜回りなどで記者逮捕問題を取材してはならない」という趣旨の指示をセンターから受けていたのだ。身動きがとれなくなった現場では「会社が取材の自由を制限してどうするのか」など疑問の声が相継いだという。通達はセンター長の判断によるとみられ、本社に勤務する記者らは次のようにかぶりを振る(複数の証言を統合)。
「おそらくサツには新人記者を逮捕する考えがなく、しかし職員が『常人逮捕』してしまったため引き受けざるを得なくなった、ということでしょう。センター長はその逮捕記事を実名で出してしまった手前、警察による逮捕を強調したのでは。これではますます現場の不信が募るばかりだと思います」
送検された「侵入」事件は、本年度内に処分が決まることになるとみられる。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |