昨年6月に北海道・旭川市で起きた北海道新聞の新人記者逮捕問題を通じて「取材の自由」「知る権利」を考えるフォーラムが5月22日、札幌市で開かれ、関心を寄せる約70人が参加した。ジャーナリストの金平茂紀さんらが登壇したパネル討論では、記者を逮捕・拘束した旭川医科大学と北海道警察の対応に批判の声が上がり、これらに毅然と抗議しなかった道新の姿勢にも苦言が呈された。
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フォーラムは、北海道新聞労働組合と日本新聞労働組合連合(新聞労連)の共催。道新労組は昨年11月、記者逮捕問題を考える報道関係者限定の勉強会を開いているが、一般公開を前提とした討論の場を設けるのは今回が初めて。主催者挨拶に立った同労組の安藤健・中央執行委員長は「取材規制によってメディアの報道が痩せ細っていくと、読者や市民の知る権利に応えることができなくなる」と訴え、そうした危機感からフォーラムを企画した経緯を明かした。
新人記者逮捕事件は、国立大学の敷地内という公共性の高い場所で発生。当時は旭川医大の学長解任問題で連日のように地元報道の取材が続いており、道新の新人記者が同大の建物内に「侵入」したのも、あきらかに取材目的だった。フォーラムのパネル討論では、同記者を「常人逮捕」した旭医大の対応について、ジャーナリストの金平茂紀さんが「あり得ないこと」と呆れ、「現場を想像してみればわかることだが、大学側が『ここはやめてくれ』と言えば済んだ筈。身柄をとって警察に引き渡すなど、ロシアのような話だ」と批判した。問題発生を受けて自社の記者を「容疑者」呼称で報じた道新の姿勢に対しては、次のように厳しく指弾している。
「自社の記者が逮捕されるという異常事態に、その記者が犯罪人であるかのように対応したとしか思えない。身柄を拘束された時点で、会社はなぜ抗議しなかったのか。その後の編集局長の説明も『侵入行為の外形的事実は免がれない』とか、まるで警察発表みたいなことを言っていて、これが言論機関の発する言葉なのかと耳を疑いました」
討論ではさらに、新聞労連の岩橋拓郎・新聞研究部長が「道新は説明責任を果たしていない」と指摘、「取材目的の立ち入りには正当な理由があったと前面に打ち出すべきだった」と苦言を呈した。道新が新人記者の実名を報じた問題については、メディア総合研究所の臺宏士さんが「私自身は実名主義」と断った上で、「道新とは別の理由で、公権力の行使をチェックする意味での実名報道とするべきだった」と話した。
新聞労連では現在、記者逮捕問題の検証チームが事実調査などにあたっているところで、フォーラムでは吉永磨美・中央執行委員長らが取り組みの進捗を報告した。組合員を対象としたアンケート調査では、公的機関などから取材制限や妨害を受けたことがあるかという問いに、回答者の4割超が「ある」と答えていたことが明かされた。またそうした規制への勤務先(新聞社など)の対応については「あまり対処していない」及び「対処していない」とした回答者が4割弱に上っていた。
先の金平さんはパネル討論で、現役記者らに「ひるむな」「萎縮するな」のメッセージを贈っている。これを受け、労連の吉永委員長は「私たちメディアはこうした問題を隠すのではなくオープンにして、自らの抱える問題や議論などを丁寧に説明していかなければならない」と訴えた。
新聞労連の検証チームは、遅くとも今秋までに検証結果をまとめる考え。また道新労組は近く、取材の自由について識者の声を集めたブックレットを作成する予定があるという。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |