続・新型コロナ獄中報告|塀の中にも「給付金」

高い塀で外界と区切られた施設で、囚われの人たちは感染症拡大をどう受け止めているのか――。5月22日公開の記事( https://news-hunter.org/?p=1288 )で紹介した刑務所からの報告、第2弾をお届けしたい。

■刑務作業も「3密」対策

《工場閉鎖になってから、出業日の日(免業日や土・日・祝日以外)は毎朝食後、検温が実施されています》――そんな書き出しで始まる書簡が届いたのは、5月27日のこと。差出人は、先の記事で新型コロナウイルス感染拡大後の獄中報告を寄せてくれた受刑者(60歳代男性)だ。

今回の手紙には、本人の人となりをある程度明かすことを認める記述があった。それに従って書き手の横顔を簡単に記しておくと、その人は2016年夏、北海道・空知地方の民家で知人男性を殺害、現金などを奪って逃走後、自ら地元警察に出頭して逮捕された。裁判では懲役20年の実刑判決を受け、翌17年から旭川刑務所に収監されている。

通常、刑が確定した受刑者が手紙のやり取りなどを認められる相手は、親族や弁護士など特定の関係者に限られる。先の殺人事件の取材で同受刑者に接触していた筆者は、異例ともいえる施設の判断で刑確定後も引き続き文通を認められることになった。おそらくは、本人に親族がいなかったためと思われる。前回記事で紹介した獄中報告は、同受刑者が筆者の求めに応えて公開前提で綴ったものだ。

5月27日に届いた2度目の報告によると、刑務所では同18日から刑務作業が再開され、約3週間ぶりに全工場が稼働し始めた。とはいえ、作業の環境はそれまでとは一変したようだ。

《工場内の役席(えきせき)はスペースを空け、前・左・右に隣席との間にビニールが吊るされました。90cm×150cm程の薄手のビニールが地上高2.5m位のところから吊り下げられました。役席からは何枚ものビニールが重なり周りはほとんど見えなくなり、担当台はおろか同囚の顔も職員の顔も判別できなくなりました》――こうした感染症対策は、作業のない時間にもついて回ることになる。書簡には、姿を変えた日常風景が綴られていた。

■「面会制限」ようやく解除

《食堂内でも立ち話しなどは禁止され、自席での交談だけです。又、風呂も大きな浴槽が2つあり洗場の席も50席ありますが、ここも間隔を空け1つおきに座って使用しています》

《工場に入場する際、着替をする更衣室も密集を避けるため一度に5名ずつの入室となり、4班に分かれての更衣となっています》

この時点ではまだ外部との面会が制限されたままで、受刑者たちが心待ちにしている「特別定額給付金」の案内も未着だったという。

その後の6月10日に届いた第3便によれば、5月27日に面会制限が解除され、翌28日からは熱中症対策として一時的にマスクを外す動作が認められるようになった。また一部の受刑者に定額給付金の申請書が届き始め、受給のための手続き一切が文通の「通数制限」から除外されることになったという。

6月8日には、施設内のクラブ活動も始まった。但し、外部講師の来訪を伴わない「テレワーク」で。

《事前にテーマや課題が出され、それに対して加入者が作品などを提出し、それを講師の元に送り、添削や指導をするという型式になるようです。詩吟や座禅などは講師のVTRを見ながら行なわれ、その状態をVTRにして講師に送られ指導を受けるようです》

事件の被害者や遺族などを追悼する「命日会」も間もなく再開されることになり、こちらも感染症対策を念頭に置いた開催方法が検討されているという。

塀の中も“娑婆”と変わらず、単純に「解除」即ち終息、とはいかないようだ。

(※ 発売中の月刊誌『北方ジャーナル』7月号で書簡の全文を公開中)

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。
北方ジャーナル→こちらから

 

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