2015年、19年、今年4月と過去3度の田川市長選で行われてきた二場公人前市長陣営による現金買収の実態が、複数の関係者の証言から明らかとなった。
■僅差だった過去2度の市長選
関係者の証言によれば、二場陣営による現金買収が初めて行われたのは2015年。二場氏が当時の現職・伊藤信勝氏を破った選挙だった。熾烈を極めた選挙戦は、二場氏と伊藤氏による事実上の一騎打ち。結果は、当選した二場氏が11,547票、落選した伊藤氏が11,484票で、わずか63票の差しかなかった。
市議だった高瀬春美氏が出馬した2019年の市長選も大接戦となり、二場氏の13,770票に対し高瀬氏は11,902票。強いとされる2期目の選挙であったにもかかわらず、二場氏は1,868票しか引き離すことができなかった。
じつはこの2回の選挙、場合によっては一位と二位が入れ替わっていた可能性が高い。結果を左右したのが、「現金買収」だったからだ。
■買収の手口
複数の関係者の話によれば、二場陣営の現金買収は組織的なもので、多くの有権者が買収を持ち掛けられていた。ハンターが確認した、2015年と19年に行われた買収の手口はこうだ。
まず、同級生や先輩後輩、さらには仕事上の付き合いなどの関係をたどった仲介人から、「選挙があるけど、一口乗らない?」「投票に行けばお金もらえるけど、やる?」などと声がかかる。求められたのは市長選と市議選の期日前投票で、二場氏に一票を投じろという内容だった。
買収に同意すると、名前、住所、電話番号、メールアドレス、車のナンバーを申告。何日に投票に行くかを事前に知らせるか、「きょう、これから行きます」などと連絡することになっていた。
仲介役からの指示は細かく、まず車で市役所に向かい、弁当店がある登り口から入って市役所の駐車場に向かう。この時、車の左後ろの窓を少しだけ空けておくよう言われていた。弁当店の脇の場所には、一見して「見届け役」とわかる人物が目を光らせていたという。
次に、車を降りて左手に入場券を持ち、市役所1階にある期日前投票の会場である大会議室(A、B、C)に向かう。具体的な指示はここまでで、投票を済めせたあとは、市役所近くの日の出町にあるコンビニに行き、そこの駐車場で現金をもらうという仕組みだった。
取材に応じた全員が、市役所の玄関口や期日前投票の会場である大会議室横の出入り口にも、「見届け役がいた」と証言している。
■投票は市長と市議がセット
買収金額は、人によって違っていた。確認したところ、ある人への“報酬”は2015年の選挙で5,000円、19年には10,000円。驚いたことに、19年の選挙時には、投票先が二場氏だけでなく、市議候補もセットになった。その際、買収の仲介人から「市長の二場で7,000円、3,000円は陸田(孝則=現議長)の分」と言われていた。
同じ小学校区に住む別の有権者は、15年が8,000円で「二場」を指定。19年は10,000円に上がり、「二場・陸田」がセットだった。その有権者の友人は、15年に6,000円(二場のみ)、19年に12,000円(二場・陸田セット)を受け取っていた。
二場前市長や陸田議長が買収行為を知っていたかどうか判然としないが、少なくとも同じ小学校区内に住む4人以上の有権者が買収に応じ、期日前投票で、それぞれが仲介人に言われたとおりに投票していた。
■今回の選挙は5,000円or8,000円
では、今年4月の選挙ではどうだったのか――。取材に応じた全員が、「買収工作はあった」としながら、口をそろえて「今回の仕組みは違った」と言う。
まず、買収に応じる者は前もって名前、住所、電話番号を登録。「投票した」と連絡するだけで5,000円もらえる約束で、期日前投票に行く日時などを連絡し車のナンバーまで申告しておけば8,000円もらえる仕組みに変わっていた。他に特別な指示はなく、仲介人からは、ドライブレコーダーで確認することを告げられていたという。報酬もコンビニでの授受ではなく、まったく別々のやり方。ただし、投票先については、全員が「二場市長」だけを指定されたと話している。
事前に「買収」の噂が広がっていたせいもあって、汚れたカネに走った有権者が、極端に減っていたという情報もある。
別の田川市民によれば、買収方法は他にもあり、地域ごとに金額や買収の手法が違うという。今回は4,000票もの差をつけられ二場氏が敗れたが、2015年と2019年の市長選で組織的な買収がなければ、違う選挙結果になっていた可能性が高い。
買収の原資を出したのは誰か――。県警の捜査に期待したい。