正月気分が抜けきれない1月16日、西日本新聞朝刊に久留米商工会議所会頭本村康氏のインタビュー記事が掲載された。本村発言の趣旨は、西九州新幹線長崎ルートの新たな案に関する提言。佐賀県の反対で膠着状態となっている未整備区間について、一部経済人らが提案しているという佐賀空港寄りの新ルートを採用するよう関係機関に求めていくという内容だった。
唐突に飛び出した新ルート誘致への反発は大きく、関係者が次々に本村発言を否定する事態となっている。
■関係者からの冷たい視線
西九州新幹線長崎ルートは、長崎〜武雄温泉間をフル規格で、武雄温泉〜博多間は在来線特急で運行されており、利用者は武雄温泉駅のホームで乗り換えなければならない。
当初、フル規格で博多~長崎を結ぶ計画だったが、費用負担の問題と長崎本線の運行が不便になることなどに懸念を示す佐賀県が、佐賀駅経由のルート計画に反対。新鳥栖 – 武雄温泉間の整備方針は迷走を続け、現在も決まっていない。
こうした状況を打開しようと佐賀県の経済人らが研究を進めてきたのが佐賀空港寄りの新ルート案だった。
新ルートは、新鳥栖から佐賀駅方向には向かわず、南下して久留米方面に。その後、福岡県南部から西に転じて佐賀空港周辺を通り武雄温泉駅に到達するというものだ。新計画案にある下のイメージ図にあるとおり、福岡県内のルートには、かなり幅をもたせているのが分かる。
この新ルート案を新聞報道などで知ったとみられる本村氏は、1月15日に西日本新聞のインタビューに答える形で、久留米駅を経由する新ルート案の実現に向け県やJR九州などに働きかけていく考えを表明。同月19日に開かれた久留米商工会議所の新年祝賀会で同様の発言を行っていた。
この時期に本村会頭のインタビュー記事を掲載した西日本新聞の意図は不明だが、関係者の反応は冷たいものだった。
まず、反応したのはJR九州の古宮洋二社長。1月25日の定例会見で本村発言について聞かれ、「(久留米経由の新ルートでは)時間がかかって運賃が高くなる。佐賀や長崎にとって本当にいいことなのか総合的に考えないといけない」として一蹴。同月30日には、定例記者会見に臨んだ福岡県の服部誠太郎知事が、西日本新聞の質問に答えて次のように突き放していた。
久留米商工会議所の本村会頭が、年頭のインタビューに応じる形でお話をされていますが、この西九州新幹線のルートについて、本村会頭個人として一つの考えを示されたものと受け止めています。ただ、今、本村さんがおっしゃっているルートは、我々も国や佐賀県に聞いてみましたが、現段階では国においても、佐賀県においても検討の俎上には全く上がっていないということです。
新幹線の建設は、膨大な時間もかかり、また、地元の財政負担も巨額になります。これらを伴うため、慎重な検討と、何より県民の皆さんの御理解、県、県議会での意思決定をしっかりと行っていかなければいけないと思いますので、この久留米接続案については現段階では私から申し上げるべき段階にはない状況です。
地元久留米市の原口新五市長はさらに冷淡。2月15日の会見では「久留米市の負担金がいくらなのかを県と協議しないと何も言えない。少し難しいのではないか」と語り、本村発言を否定してみせた。
福岡県やJR九州が反発するのは当然だ。新幹線の整備にかかる費用は国と県、JRが三分の一ずつ負担するのが原則。本村氏が理解していたかどうか分からないが、問題の新ルートが採用された場合の整備費は、民間の試算で2,000億円を大きく超える額。「久留米市の活性化」という一都市の都合で決まる話ではない。
■怒りを露わにする佐賀県側関係者
地元久留米の賛同も得ぬまま、パフォーマンスに走った本村氏――。もっとも怒りを覚えているのは、佐賀県の関係者だという。同県のある経済人は、本村氏の言動に怒り心頭だ。
「(本村発言は)迷惑だ。唐突に持ち出されれた福岡県知事もJR九州も、『はい、そうですか』と歓迎するわけがない。地元の久留米市長でさえ、冷たくあしらっている。巨額の費用がかかる新幹線整備についての話は、正月気分に浮かれて持ち出すべきものではない。新ルート案は数千億円の工事費が上積みされるのが確実。これは国民負担が増すことを意味しており、久留米市だけの活性化を目的に議論するのは間違いだ。目的が正しくなければ、国民の賛同は得られない。佐賀は、フル規格での全線開通を目指す長崎県側と、運営方針やルートに関する協議の真っ最中。本村氏の軽挙妄動のおかげで、おかしな方向に行きかねない状況だ」
新ルート案にかかわった複数の関係者に取材したが、いずれも同様の見解。本村会頭のパフォーマンス的な発言に、苦り切った表情だった。前出の経済人は、「だいたい、本村さんに新幹線整備について発言する資格があるのか疑問」とまで述べた。
そもそも、巨額の税金投入が必要となる事業について、本村氏にモノを言う資格があるのか――。次稿で、その問いに対する答えを詳しく報じる。