「ふるさと納税」で迷走する洲本市、市長らの責任回避に新たな100条委

3月26 日、兵庫県の淡路島にある洲本市の議会で奇妙な議決がなされた。洲本市と同じ淡路島にある南あわじ市在住の男性(以下、「Aさん」)に関する100条委員会(「株式会社淡路島第一次産業振興公社の事務処理等に関する調査特別委員会」)を設置すると市議会が議決をしたのだ。

洲本市は、ふるさと納税で全国トップクラスの78億円(2021年度)という額を稼ぎ出す自治体だったが、総務省が定められた上限「30%」をはるかに超える返礼品を問題視し、制度から除外された。ふるさと納税を所管してきた魅力創生課の課長・S氏は懲戒処分を受け、自ら退職。市議会は、昨年11月から100条委員会(「元市職員の不適切な事務処理等に関する調査特別委員会」)を設置してその問題の真相究明にあたってきた。それとは別に、ふるさと納税絡みの新たな100条委員会を設置するというのだ。どういうことか――。(既報

◇   ◇   ◇

S元課長に対する調査は、市職員でありふるさと納税の責任者の一人であったことから当然だ。しかし、Aさんは洲本市が委託する第三セクターの淡路島第一次産業振興公社の社員で、東京にあるアンテナショップの店長であったというだけ。議決を見ると《旧東京アンテナショップに係る業務委託についてふるさと洲本もっともっと応援事業の特産品等の提供に関する事務について》と書かれている。

「100条委員会の対象はAさんだけで、市職員など公務員は含まれていない」と自民党系の洲本市議は言う。第三セクターの社長は、洲本市の上崎勝規市長であり、東京のアンテナショップで何らかの問題があれば、真っ先に責任追及を受けなければならないのは、上崎市長だろう。「こんなおかしな100条委員会は税金の無駄ですよ」と洲本市職員も憤懣やるかたない表情だ。

A氏への100条委員会は、洲本市の上崎勝規市長の発言がきっかけだったという。3月12日の定例会で上崎市長は、「アンテナショップの運営に疑義がある」と説明。市議会は、それに賛同して100条委員会の設置となった。

しかし、A氏は、懲戒処分を受けて退職したS氏の100条委員会でも証言をしている。おまけに、100条委員会はすでに7回も開催されているが、肝心のS氏はいまだに出頭せず、なんら経緯、事情を説明していない。

先行した第三者委員会ではA氏が、《元課長にこれらの業務の決定権限が集中》《元課長の独断専行的な業務遂行に問題を感じていても、誰も口出しできないという状況に陥った》と権力の「一極集中」が、ふるさと納税の指定取り消しという、信じがたい事態を招いた理由にあげている。まず真相解明すべきは、S氏の問題なのだ。

S氏に事情も聞かないままでA氏の100条委員会を立ち上げるのは何故か――。その理由を「口封じ」とみている関係者は少なくない。

上崎市長やS氏はふるさと納税の関連で、すでに複数の刑事告発を受けている。ハンターも告発状を入手しており、S氏が洲本市発行の「商品券」でMacBookのパソコンを購入していたとする業務上横領や、ふるさと納税の返礼品「洲本温泉利用券」に関わる公文書偽造などの疑いが持たれていることが分かっている。心ある洲本市の職員が、次のように内情を明かす。
「S氏は今でも上崎市長らと頻繁に連絡をとっているそうです。『ふるさと納税問題でA氏を悪者にしないと、自分たちが逮捕されかねない』、『刑事告発をしたA氏の動きを封じたい』と意見が一致しているとも言われています。そこで100条委員会を利用してA氏を悪者に仕立てようという魂胆です。本来、悪いのはS氏や上崎市長。それを、ただの民間人であるA氏に押し付けて逃げ切ろうとしているのは、酷すぎると批判が上がっています」

ちなみに、ハンターが入手した告発状の内容によれば、A氏の関与はまったくうかがえない。一方、捜査機関はすでにある場所に「帳場」を設け、本格的に着手しているという。地元メディアからは、「上崎氏、S氏に加えて副市長らの逮捕に備えて、予定稿を作成しなければならない」、「ふるさと納税の不正と思われる問題が多々あり、いくつも容疑が想定されるので、予定稿も大変だ」といった声が聞こえてくる状況だ。上崎市長やS氏の「Xデー」が近づいているのだろうか?

地元の報道機関であるサンテレビは昨年9月、《内部告発【前編】洲本市元課長の不正行為~東京アンテナショップ元店員たちの証言と録音データ「現市長は知っていたはずだ…」~》、《内部告発【後編】洲本市元課長の不正行為「公金で高級和牛を女性に」~サンテレビの市への情報公開請求で分かったお金の流れ~》と2度にわたってA氏の告発を中心に、ふるさと納税問題を報道。それについてS氏はBPO(放送倫理・番組向上機構)に「申立」を行った模様だという。前出の洲本市職員は呆れ顔でこう話す。
「S元課長は、洲本市と取引関係にあった返礼品会社の代表だった女性に、東京にあるアンテナショップの店長をやらせようとしていたと噂されていました。課長という優位的な立場を利用した行為が事実なら、非常に悪質です。A氏は、元課長の公私混同を防波堤になって防いでいた人物。洲本市に大きな貢献をしてくれているのです。A氏は正義感から、実態ををサンテレビに告発したのだと思われます。告発の内容は、素晴らしいと思います。しかしS元課長は、女性とのツーショット写真などが放送で流れたことに怒り心頭だったのではないかと思います。S元課長はSNSで、ふるさと納税に関する自分の問題を指摘した洲本市民に、東京の弁護士から内容証明を送付させるなど過剰反応しているようですが……」

下の画像は、ハンターが入手したS氏と元スタッフとみられる女性のツーショット写真である。

アンテナショップとは何ら関係がなく、ふるさと納税の返礼品業者の代表者に過ぎない女性が、なぜかアンテナショップの責任者のようにふるまっていたという。前出の洲本市職員は、「実におかしい。女性はアンテナショップで度重なる問題を引き起こし、怒った従業員がリポートにまとめて洲本市にも提出している」と話す。

◇   ◇   ◇

話は、A氏の100条委員会に戻る。3月10日の夕刻、洲本市商工会議所2階の会議室に上崎市長の姿があった。そこには、複数の洲本市議や有力者が集まっていた。そこにやってきたのは安倍派5人衆の一人で、裏金事件で、東京地検特捜部から事情聴取を受けた兵庫9区選出の西村康稔前経産相。その席上、小野章二市議が「ふるさと納税の問題、(上崎)市長も来ていますが、(制度に)復帰のめどがついたらぜひとも後方支援を」と訴えると、西村氏は「市長からも話を聞いている。できるタイミングで、やれることをやる」と述べたという。

その場にいた自民党関係者は「100条委員会でも結論は出ていない。刑事事件になる可能性があるのに、洲本市は『ふるさと納税に復帰』と言う。西村さんも前向きの発言。ふるさと納税復帰のために、裏で動いてもらっているのかなと感じました」

上崎市長は、ふるさと納税について市議会で「ふるさと納税に復帰できる。そして、その制度を使って、その財源を使ってまちを豊かにする。そういうことが大きな責任の1つだと感じております」と述べているのだから呆れるしかない。

本来、厳しく責任が問われなければならない上崎市長やS氏ではなく、一般市民のAさんにすべてを押し付けようとする洲本市。新たな100条委員会が、上崎市長やS氏の保身に使われる可能性が高い。

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