福岡市民会館・須崎公園一体整備事業の仕様変更に事務決裁規程違反の疑い

疑惑が深まった。福岡市が200億円をかけて老朽化した市民会館と須崎公園を一体整備する大型公共事業の要求水準書が、特定業者の要請で不自然に書き変えられていた問題で、同市への新たな情報公開請求で入手した文書から、唐突な方針転換が本来の決裁権者の了解を得ないままに実行された形となっていることが分かった。市の事務決裁規程上、重大な違反行為があった可能性がある。

■不自然だった駐車場整備方法の変更

役所と特定業者の癒着を疑わざるを得ない業者選定が行われたのは、福岡市が市内の中心部に位置する須崎公園と市民会館を一体整備する「福岡市拠点文化施設整備及び須崎公園再整備事業」。焦点になっているのは、計画全体に大きな影響を与える駐車場の整備方法だ。

駐車場の整備方法は、当初案では「地下」。市はこの方針を頑なに守り、対象エリアの地下水位が高いため工事にコストがかかりすぎるとの指摘や、隔地駐車場の利用といった提案を頭から否定していた。「地上」での整備を求める多くの声に対しては、「原案の通り」とバッサリ切り捨てていたことが、「入札説明書等に関する質問及び意見への回答」の記述から明らかとなっている。ただし、ここまでの市側の姿勢は、“当然”と言うべきものだった。

福岡市が市民会館の立て替えに向けて動き出したのは2008年。以来、整備方法などを検討するため民間コンサルや設計業者に12件・約1億3,000万円に上る業務委託まで行うなどして12年も議論を重ねてきたからだ。市関係者によれば、そうして決まった計画のうち、「地下駐車場」は景観や事業費に極めて大きな影響を与える重要なパーツだったという。

前述した通り、須崎公園一帯は地下水との関係で工事が難しいとされる地域である。入札に参加しようと考えていた事業者は、「地下駐車場ならコストが合わない」などとして、昨年6月5日の入札参加表明書の受付締め切りまでにほとんどが撤退。3グループにまで減っていた。市の担当部署がおかしな方向に走り出すのは、このあたりからだ。

■課長決裁で方針転換したが……

問題の事業はPFI方式を採用しており、民間事業者から意見を聞く「官民対話(サウンディング)」が実施される。当該事業においては、入札まで2か月となった昨年6月26日のサウンディングで、市は地上での駐車場整備を求めた業者の主張に対し、それまでの姿勢を一変させて「事業者が提案できるよう要求水準を修正します」と約束していた。長い年月をかけて積み上げられた計画に大きな影響を及ぼす「駐車場」の整備方法が、具体的な理由を記されることもなく、いきなり変更されたということだ。

では、要求水準書の書き変えにあたって、市の担当部署はどのような議論をし、誰が決裁したのか――?ハンターは、市に対し「要求水準書の記述を『地下中心』から『地下など』に変えた際の決裁文書」を情報公開請求したが、開示されたのは起案した職員を含めて6人による、しかも最終的な決裁は「課長」という信じられない“軽い”決裁文書だった。膨大な議論と、1億3,000万円もかけて得た業務委託の成果を、わずか6人の職員が捻じ曲げ、課長の一存で事を決した形だ。

■要求水準書当初案の最終決裁は局長

本当に課長レベルの職員の決裁で要求水準書の重要な部分の仕様が変更できるのか――?こうした疑問を抱いていたハンターに、前回の配信記事(⇒《福岡市民会館・須崎公園一体整備事業の闇|仕様変更に疑惑の「決裁文書」》)を読んだという福岡市の職員やOBから寄せられたのは、「こんな決済はあり得ない」(市幹部OB)、「数百億円規模の事業に関する要求水準書は、当然ながら局長または副市長の決裁を受けているもの。ならば、重要な整備方法の変更についても、それ相当の立場の職員が決裁していなければならないはずだ。そうでなければ市の決裁規程が有名無実になる」(市職員)といった声だった。もっともな話である。市に対して、要求水準書の当初案を決定した際の決裁文書を開示請求し、出てきたのが下の1枚である。

平成31年3月29日、市経済観光文化局が起案し、住宅都市局と合議の上、入札説明書、要求水準書、落札者決定基準、様式集、基本協定書(案)、事業契約書(案)について一括して決済されていた。最終決裁は両局の局長。もちろん理事と部長も決裁に加わっている。

■「業者選定をやり直すべき」との声も

部長、理事、局長まで了承していた要求水準書の当初案が、課長だけの決裁で変更できるとは思えない。福岡市が定めている「事務決裁規程」を確認してみた。

それによると、例えば競争入札参加資格や競争入札参加者、随意契約の相手方の決定にあたって課長が専決できるのは「3,000万円未満」の事案のみ。4,000万円未満が部長、4,000万円以上は局長、議会の議決を擁する大型事案は副市長の専決事項と決められている。

問題の工事の設計変更などについての事務区分は、次のようになっている。

工事等の設計変更にあたって部長、局長、副市長が専決するのは、変更部分がそれぞれ「重要」「特に重要」「議会の議決に付すべきもの」と判断された事項。課長の専決で可能なのは重要とはみなされない『工事又は製造の請負の施行に係る設計又は履行期間の変更』に限られる。

須崎公園と市民会館の一体整備における駐車場の建設方法は、それまでに積み上げられた議論や、市と業者のやり取りからも、景観や工事費に多大な影響を与えることが確実なもの。「重要」あるいは「特に重要」な事項であって、部長や局長の決裁が必要なのは明らかだ。当初案の決裁を部長、局長が行っていたことを合わせて考えれば、とうてい課長だけの決裁で終わらせていい事項ではない。重大な事務決裁規程違反を疑うべき事態だろう。

この点について、市側は「部長や局長にも了解をとった」と強弁しているが、実際の決裁文書にあるのは課長の承認だけ。その他の幹部職員が確認していたことを示す公文書上の証拠は残っておらず、決裁上の瑕疵が疑われる状況だ。

「この業者選定はやり直すべきではないのか」――市の内外から、不正を疑う声が上がり始めている。

 

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