異例中の異例である。「公文書不存在決定の取消しについて(通知)」――。おそらく、情報公開制度に精通した新聞やテレビの記者でも、お目にかかる機会はないはずだ。
公園整備事業に関する情報公開請求に対し、事前に存在を認めた土地買収の決裁文書や売買契約書を開示実施日になって「不存在」扱いにした福岡県八女市(三田村統之市長)が、HUNTERの抗議を受けて不存在決定を取り消し、9日までに対象文書を開示した。ドタバタ劇の背景にあるのは……。
■異例の不存在決定取消し
ハンターが八女市に情報公開請求していたのは、同市を流れる矢部川沿いに計画される公園整備事業の関連文書。事業の概要や経緯を示す文書の他、事業に利用する土地の買収を決めた際の、決裁文書や売買契約書を開示するよう求めたものだった。
これに対し、先月26日の情報開示で八女市が出してきたのは関連文書のほんの一部分。驚いたことに、事前の確認で「ある」と答えていた土地に関する文書は、「不存在」という結果だった。(下が八女市発出の「不存在通知決定書」)
不存在通知を示されたハンターの記者は、その場で“公園整備事業の所管課だけでなく、情報公開制度を担当する総務課と相談した上で「不存在」なのか”と確認。市側の担当者は「はい」と即答していた。一人の課長の「勘違い」や「判断ミス」だったのではないということだ。
ところが、役所の総意として「不存在」を通知したはずの八女市が、ハンターの猛抗議を受けて方針転換。改めて、対象文書の存在を認めるという失態を演じる。迷子になった文書が叱られて出てきた格好だが、いったん「不存在」の決定通知を発出したため、これを取り消す必要があったということだろう。二度目の情報公開を前に、下の文書が送られてきた。
情報公開を巡って、ずいぶん多くの役所と「出せ」・「出さない」でやりあってきたが、こうした通知文書にお目にかかったのは初。おそらく、これから先、同様のものを見ることはない。
行政機関が事前に「ある」と断言した文書が、開示実施日の時点で「不存在」となり、抗議されると「捜したら、あった」――。こんな役所の言うことを、信じる人はいないだろう。
そもそも、ハンターの記者が抗議した結果が「不存在決定の取消し」なのであって、何も知らない市民なら、請求した文書は本当にないものと信じ込んでいたのではないか。そうした意味で、八女市の一連の行為は、極めてたちの悪い隠蔽と言わざるを得ない。
■事務引継書に残されていた疑惑の「原点」
ところで、当初市側が不存在の理由として挙げたのは「八女市に合併される前の旧立花町が買収した土地であり、八女市が買った土地ではないから不存在」という、とんでもない解釈。確かに、立花町は2010年に八女市に編入合併されているのだが、八女市が行政権を引き継いだだけで、立花町の何もかもが“消滅”したわけではない。
当然、永久保存が原則の売買契約書など土地取得に関する文書は、八女市の公文書として管理・保存されるわけで、その証拠に、合併した際に八女市長と前立花町長の間で交わされた文書が残されていた。下が、市への情報公開請求で入手した「事務引継書」。現在の八女市長である三田村統之氏が署名・捺印している。
注目したのは、「事務引継書」に添付されていた「事業実施及び継続について、特に配慮を求める事項」という文書(下、参照。赤い書き込みはハンター編集部)。文書の最後に(人権・同和政策関係)として、《・中洲地区小集落地区改良事業(集団移転)の跡地問題の解決》とある。実は、この記述こそ公園整備事業疑惑の原点であり、『中洲地区小集落地区改良事業(集団移転)』の対象地の売買契約書が、八女市が「不存在」と偽ってごまかそうとした文書なのである。
正確に述べるなら、市が本当に隠そうとしたのは『中洲地区小集落地区改良事業(集団移転)』の対象地に「隣接する土地」の関連文書。その土地は、ハンターが存在確認し、市が「ない」と断言した“本事業に利用する土地で、八女市が買収した土地”だった(参照記事⇒《八女市公園整備事業に重大疑惑 「ない」と断言の土地の存在明らかに》。八女市が取得した土地のことを掴まれないようにするため、事業の原点である旧立花町が買収した土地の関連文書を隠さざるを得なかったということだ。
旧立花町が人権・同和政策の一環として集団移転してもらうため買収した土地(文書中では『跡地』)をどうするか――。解決策が八女市に引き継がれたことはハッキリしたが、現在の三田村市政が、まっとうだった旧立花町の事業に不必要な土地買収を絡めたため、おかしな方向に走りだす。不必要な土地が、『中洲地区小集落地区改良事業(集団移転)』の対象地に「隣接する土地」であることは言うまでもない。