北海道立江差高等看護学院・紋別高等看護学院で長期間にわたって続けられてきた、副学院長らによる生徒へのパワハラ。道が設置した第三者調査委員会(座長・山内良輔弁護士)が調査を始めているが、教員らの犯罪行為がきちんと裁かれる保証はない。道庁の組織自体が腐っており、看護学院内で起きたパワハラに関する記録や関係者への聞き取り結果が、不正に破棄されたり改ざんされたりした可能性があるからだ。既に悪質な「隠蔽」の証拠が、いくつも見つかっている。
■黒塗り失敗で明るみに出た副学院長の不正
下の画像、A、B、Cの3枚の文書は、北海道のジャーナリスト・小笠原淳氏が、パワハラの舞台となった江差高等看護学院と紋別看護学院で行われていた学校教員による出張旅費の不正受給について調べるため、道庁に関連文書の開示を求めて入手したもの。いずれも、道総務部行政改革局行政改革課が電話による不正の告発を受けた際に作成された『電話受理票』だ。同じものが何枚も同時に開示されたのは、違う決裁項目ごとに、この文書が添付されたからである。
問題となった旅費の詐取事案については、2013年から18年までの6年間で1,899件・318万7,857円が不正に支出され、教職員35人が犯罪行為に手を染めていたことが分かっている。
税金の詐取という重い犯罪のはずだが、何故か関係者の処分は4人に留まり、いずれも懲戒に到らない「注意」で済まされていた。
道庁が小笠原氏に隠そうとしたのは、「電話受理票」にあった一部の記述で、担当職員が慌てたためか文書Cの該当部分が、黒塗りされないままになっていた。下に、その部分を拡大し、赤く囲んだ。
同時期に発覚した北海道警察・興部警察署の署長(当時)による約4万円の旅費不正受給では、当該署長が「戒告」の懲戒処分を受け、辞職するに到っている。上掲の文書には、副学院長がこの署長のケースを引き合いに出して告発者を脅した事実が記録されることになった。その脅し文句は《ばれたらおまえのせいだからな》だったが、道庁職員のマスキングミスがなければ、この事実は闇に葬られていたことになる。
(*参照記事⇒《江差看護学院教員らの不正受給、道議会で明るみに|副学院長「ばれたらおまえのせい」》
問題の旅費不正を暴いた小笠原氏が、次のように解説する。
「開示文書のうち、計122枚からなる『事故速報』(及びそれに係る文書)の中に『電話受理票』という文書が3点、含まれていました。この3つはまったく同じ文書で、しかし墨塗り具合に違いがあります。AとBはまったく同じ箇所を塗りつぶしていますが、Cのみは後半の4行ほどが塗られていません。ここに副学院長の「ばれたらおまえのせいだからな」という発言が記録されています。北海道はおそらくこのセリフを隠そうとして、Cだけうっかり塗り忘れたのだろうと思います」
“上手の手から水が漏れた”のか、あるいは“天網恢恢”のたとえ通りということなのか分からないが、パワハラの主導者とされる副学院長の悪質さを如実に示す証拠を隠そうとした道庁の目論見は、あっさり崩れたということだ。
道立の高等看護学院で起きた不正やパワハラについては、道庁が不良教師たちを徹底的にかばい、事件そのものを「なかったこと」にしてきた経緯が明らかになっている。ただし、こうした隠蔽体質は、一朝一夕で改善されるものではない。同庁は、パワハラ被害者に対しても、タチの悪い隠蔽を行っていた。
■被害生徒本人の情報も非開示
下は、パワハラ被害にあった生徒が、今年3月に学院内で道の担当課から被害状況についての聴取を受けた時の記録を、「個人情報開示請求」して入手した文書。開示されて当然の被害生徒本人に関する記録を、道庁は平然と黒塗り非開示にしていた。よその自治体ではあり得ない話だ。
さらに、ハンターが開示請求で入手した、同じ日の事情聴取の記録(これも黒塗りではあるが)が、なぜか聴取を受けた被害生徒の個人情報開示請求では出てこないという、不可解な状況になっていることも分かっている。
江差高等看護学院と紋別高等看護学院で起きたパワハラや旅費の不正受給は、いずれも江差の副学院長などほぼ同じ顔触れの「センセイ」方が起こした事件だ。そうした連中の悪行を、何人もの生徒や職員が告発してきたが、北海道の担当課は見て見ぬふりをし、被害者を増やす結果を招いた。
膿を出し尽くす覚悟があれば姑息な隠蔽に走る必要などないはずだが、ここまで述べてきた通り、道庁はオープンにすべき関連文書の情報公開にも応じておらず、関係者の不信感は増すばかりだ。鈴木直道知事に道民第一の気持ちがあれば、まず徹底した情報開示を指示すべきだろう。