2019年の参院選広島選挙区で2,900万円もの買収資金をばら撒き、有罪判決が確定した河井克行元法相と、その妻で元参院議員の案里氏。河井夫妻から買収目的とされるカネをもらっていた広島の地方議員らが、検察審査会で「起訴相当」と議決された。(*参照記事⇒《参院選巨額買収事件、検審「起訴相当」でざわめく政界》
買収額には差があるものの、選挙結果が歪められたことを考えれば、現金を渡した側も受け取った側も処罰されるのは当然。そうした意味で一番たちが悪いのは、河井陣営からも対立候補の陣営からもカネをもらっていた政治家ではないのだろうか?
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最高額となる300万円を受け取っていたのは、亀井静香元金融担当相の公設秘書を務めていた山田賢次氏。これほど高額の金をもらいながら、検察は不起訴にしていた。
二番目に額が多かったのは、広島県の奥原信也県議で200万円。奥原氏は、河井克行受刑者から50万円と100万円の2回、案里氏から50万円と3回にわたって受け取っていた。ただし、奥原氏側が受け取ったのは、河井陣営のカネだけではない。
奥原県議が代表を務める政党支部「自由民主党呉第一支部」は、保守分裂の広島選挙区で案里氏と戦った溝手顕正元自民党参院議員の「自由民主党広島県参議院選挙区第二支部」からも、2019年6月3日に50万円をもらっていた。
広島県三原市の市長を2期務めたことのある溝手氏は、参院当選5回。防災担当相や自民党の参議院議員会長などを歴任した岸田派のベテランで、6回目の当選を目指していた。50万円が入金された6月3日という日付は、参院選公示の1か月前というタイミング。この政治資金も、選挙向けだったとみられている。溝手氏の後援会関係者が、不満そうにこう語る。
「こちらから勝手に振り込むというバカなことはなく、奥原氏から要求されたものです。もちろん、政党支部間のやりとりで問題はありません。もともと自民党の広島県連は、溝手氏だけを公認に決めていた。奥原県議が河井側から200万円も受け取っていたと聞いて、本当におったまげました。広島の地方議員で、うちの方(溝手陣営)から寄附したのは奥原だけだったはずですが……」
県議当選12回、議長経験者でもある奥原氏の「自由民主党呉第一支部」は2020年、4,780万円あまりの政治資金を集めていたことが、政治資金収支報告書の記載から分かっている。地方議員としては破格の金額といえよう。
念のため収支報告書を精査してみるとと気になる企業名と献金額が出てくる。『コトブキ技研工業(株) 400万円』という記載だ。
コトブキ技研の実質的なトップとされるのは、呉市の商工会議所会頭を長く務めた奥原征一郎氏。ハンターでは、2020年10月12日に同氏に関する記事を配信している。参照記事⇒《自己破産したJC仲間が麻生財務相側に不可解な献金》
麻生太郎自民党副総裁のスポンサーとして知られる奥原氏は、経営していた「アジア特殊製鋼」(本社:福岡県北九州市)が、2012年に205億円もの負債を抱えて経営破綻した際に、自身も自己破産した人物。しかし、政治力も資金力も健在だ。ある自民党の広島県議が首をかしげる。
「奥原県議は破綻したコトブキ技研工業などの創業者一族。呉市の名士といえますね。奥原県議からみれば、征一郎氏は叔父にあたるはずです。カネに困るような政治家ではないのに、なぜ河井や溝手氏の両方から金をもらうようなマネをしたのか――。不可解ですね」
だが、奥原県議は河井夫妻の公判で「もらった200万円は個人的な交際費に使った」「150万円の領収書は検察調べがあってから、政治資金収支報告書に記載をした」「封筒をみて、選挙も近くカネだと思った」「違法な買収と思ったが受け取った」などと証言。県議を続けていることについて聞かれると「今は何も言えない」と逃げていた。
奥原氏の自由民主党呉第一支部が、政治資金収支報告書に記載していたの200万円のうちの150万円のみ。残り50万円は、ポケットマネーと化した状態だ。検察審査会が「起訴相当」の議決を行った際、マスコミに「あの、これは検察審査会の判断ですから、私はコメントする立場にない。重く受け止めています、今後検察に(事件が)移りますからそれも協力していきたい」などと答えた奥原県議だが、対立する二つの陣営から政治資金を受け取った政治家に、遵法精神があるとは思えない。検察は早急に起訴して、正しい司法判断を仰ぐべきだろう。